語る、また語る

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トモキ君は

トモキ君(仮名)は何やら厚紙を組み立て、小型の武器をつくっていた。私は三十人ほどが入る小学三年生の教室の右端、廊下からすぐ列の真ん中あたりに座っていた。隣はトモキ君だった。当時は男女が一組で机を連ねており、教科書を広げるときに相手の机にまで広げてしまっては、手前に寄せていたものである。

トモキ君は十センチ四方の厚紙でつくった箱に、それよりは薄い紙でつくった肩ベルトを取りつけてランドセルのようにし、ストローと紐を組み合わせた小さな"ヌンチャク"をしまった。どこかを押して"ヌンチャク"が引き出せるようにしたかったらしいのだが、あれこれ手を動かしても一向に"ヌンチャク"が現れる気配はなかった。「あれ、ヌンチャクが出てこない、あれ、何でだ」という声を聞いて、私の口元はゆるんだ。トモキ君はひょうきんなところがある。トモキ君を横目に私が何をしていたのかといえば、おそらく道具箱の整理整頓である。授業と授業の間の短い休み時間の特にやりたいことがないときによくやっていた暇つぶしだった。

トモキ君は一年生のころから塾に通っていた。トモキ君が通っている塾の建物は、友だちの家の帰る途中にあって、放課後にその友だちの家で遊ぶときだけ「ここがトモキ君が通っている塾なんだ」と思いながら建物を見つめた。トモキ君は計算が速くて算数が得意だった。算数で配られたプリントを早々と終わらせて、自分の持ちものを使い机の上で遊んでいた。もしかしたら、ヌンチャクの武器もそのときにつくっていたのかもしれない。

トモキ君は華奢だった。とはいえ中学生になると華奢なりにもごつごつとしてきて、眼光は鋭くなっていた。髪を染めたりもし、制服も着崩すようになった。頻繁に話す間柄でもなかったから、無邪気な面影がどこにいったのか、私にはわからなかった。しかし、私の中のトモキ君はあのころのままなので、トモキ君はほんとうはそんな人ではない、見た目は変わったけれど、内面はきっと変わっていないはずだと、どこかで疑わなかった。

トモキ君は何かの流れで中学生なら笑うであろう好色な言葉を、一人で周りに聞こえるようにつぶやいていた。中学三年生でまた席が隣になったわけで、しかし机は人一人が通れるくらいは離れていた。たしか英語のテスト直しが行われていて、できた順に教卓まで提出する時間だったので、教室はざわついていた。前の席の友だちに向けてだったのかもしれないが、その言葉に思わず私は笑い声をあげた。横を見るとトモキ君と目が合った。トモキ君は尖ったように笑った。

トモキ君は気づいていないけれど、私は彼の書いた物語を読んだ。そこには数字を使った華麗なからくりがあった。私は、トモキ君の中に算数が得意でひょうきんだった、あのころのトモキ君もいるのだと確信した。