語る、また語る

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死を希望に生きた人々のうた~黒人霊歌 「Soon ah will be done」~

黒人の音楽といえば、
たしか黒人霊歌があったなと、
sisoaさんのブログ*1を読んでいたら、
遠いむかしの記憶がよみがえってきた。

突然ブログを言及させていただいたので、
まことに勝手ではありますが、
まずsisoaさんのブログについて、
ここで紹介をします。

sisoaさんは、音楽と服をコンセプトに
とても立体的なブログを書かれている方だ。

音楽とファッションへの幅広い知識と、
多彩な表現力を結びつけて
紡がれる文章からは、
たくさんの新たな発見や学びを
得ることができるので、
読んでいていつも興味深く、楽しい。

今回読んだのは、
ブルースをルーツにしている
アーティストの音楽についての記事だった。

ブルースとは、
アメリカ南部の黒人たち、
つまり奴隷として連れてこられた
人々の子孫が不運・悲哀・苦悩を
歌った音楽」とのことだったのだが、
わたしは初めて知って驚いた。

そして「アメリカ南部の黒人たち」と
「奴隷」の部分から、黒人霊歌を連想。

おそらくわたしが過去に、
黒人霊歌の合唱を聴いたことがあった*2からだと思う。

黒人霊歌のことは、
あとに少し触れるとして、
こちらが思い出した合唱曲です。

www.youtube.com


この歌の背景を知らなくても、
外国語がわからなくても、
静と動のうねりのなかに、
悲痛な心の叫びを感じるのではないでしょうか。

以下に、歌詞を載せます。

Soon ah will be done

Soon ah will be don' a-wid de troubles ob de worl',
Troubles ob de worl',
de troubles ob de worl'.
Soon ah will be don' a-wid de troubles ob de worl',
Goin' home t'live wid God.

I want t'meet my mother, I want t'meet my mother,
I want t'meet my mother, I'm goin' t'live wid God.

No more weepin' an'a wailin', no more weepin' an'a wailin',
No more weepin' an'a wailin',  I'm goin' t' live wid God.

もうすぐ終わる

もうすぐこの世の苦しみは終る
この世の苦しみ、この世の苦しみ
もうすぐこの世の苦しみは終わり、
神様と一緒に暮らすのだ

かあさんに会いたい、かあさんに会いたい
かあさんに会いたい、神様と一緒に暮らすのだ

もう泣いたりわめいたりすることもない、もう泣いたりわめいたりすることもない
もう泣いたりわめいたりすることもなく、神様と一緒に暮らすのだ

小川洋司 著「深い河のかなたへ―黒人霊歌とその背景」より

※引用にはありませんが、
後半にI want t' meet my Jesus. と歌われています。
Jesusはイエス・キリストのことで、
「主の下へ行きたい」という
ニュアンスになるようです*3

この歌詞からもうかがえるように、
黒人霊歌とは、
キリスト教信仰を支えにした
アメリカの黒人奴隷たちが、
救いを求めて歌った歌のこと。

大陸に連れてこられた人々は、
もともと持っていた民族宗教のかわりに、
白人たちからキリスト教を教えられる。
それらと黒人文化が混ざり合い、
黒人霊歌という宗教歌になったという。

白人の讃美歌で歌われるのが
イエス・キリストへの賛美なのに対して、
黒人霊歌では救済が歌われ、
少し暗い影が感じられるのが特徴だ。

黒人霊歌がどういったものだったかが、
よりイメージできる記述があった。

黒人霊歌の作者たちは、墓場以外に安心して眠る場所を持たず、月から血が流れるのを幻視する人々だった。文字は読めず、故郷もなく、説教者から聴く聖書の話を神話のように言い伝え、歌い継いでいた。(中略)
それは初め、奴隷が自分たちだけで歌うだけのものだった。(中略)
「早く死にたい。」罪深いのでこのように苦しい人生を送らなければならないと、奴隷たちは教え込まれていた。罪をあがなって死ぬときがくれば、イエスが迎えにきてくれて天国へ行ける、やっと楽になれるのだと、それだけを唯一の希望として生きていたようだ。
ウェルズ恵子 著「黒人霊歌は生きている 歌詞で読むアメリカ」より

苦しみは死とともに終わるという
考え方は、先ほど紹介した
「Soon ah will be done」の
歌詞にもよく表れている。

その後、アメリカで奴隷制が終わると、
黒人霊歌の要素はゴスペルへと発展し、
同時にブルースが生まれる。
そして、それがジャズへと
受け継がれるというのだから、
音楽というものは、
まさに人々の生きた証のようだ。
何だか胸が熱くなってくる。

現代のわたしたちが合唱曲として
耳にする黒人霊歌は、
西洋音楽に基づいて編曲されている
整った音楽というイメージだ。

しかし、その原点は、
だだっ広い農場の片隅の
つつましい小屋や教会で、
声を出し、歌った奴隷たちの
生活に根付いた素朴な歌なのである。

参考文献
小川洋司 著「深い河のかなたへ―黒人霊歌とその背景」、音楽之友社、2001年
ウェルズ恵子 著「魂をゆさぶる歌に出会う――アメリカ黒人文化のルーツへ」、岩波ジュニア新書、2014年
ウェルズ恵子 著「黒人霊歌は生きているー歌詞で読むアメリカ」、岩波書店、2008年