語る、また語る

いつもにプラスα

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あたりまえは、特別である

海沿いの炭鉱の町で三代に渡って過ごす家族が題材の絵本「うみべのまちで」。その一場面で、子どもが友だちと立ってブランコに乗っていた。思いっきりこぐと海が遠くまで見えるブランコだ。

思いっきりこぐと海が遠くまで見えるブランコに立って乗るとは、どんな感じなのだろう。立ちこぎなんてこの歳でしても大丈夫だろうか。ただでさえ三半規管が鈍っているのに。

付き添いで行った公園で、子どもがブランコで立ちこぎをしていたので、隣を陣取ってみる。その子どもは東を向いているのに対して、私は海が見えるかもしれない西を向いて乗った。海まで歩いて15分はかからないので、もしかしたら海が見えるかもしれないと思ったのだ。思いっきりこいでみたものの、平地なのと建物があるのとで海は見えなかった。

顔見知りだったので唐突に、「ここから海は見えないな。思いっきりこぐと海が見えるブランコがあるらしいからやってみたんだけど、見えなかったよ。」と話しかける。「海見えないんだね。でも、こっちは山が見えるよ」とやさしい声が返ってきた。

まさか、自分は海のことしか考えておらず、山が見えるなんて思いもしなかった。いや、山が見えるのが"あたりまえ"だと思っていたので、見えているのが山という認識もなかった。

東に向きを変えて、もう一回立って乗る。ブランコを思いっきりこぐと、山が迫ってくる。そのまま飛び込めそうだ。

思いっきりこぐと山に飛び込めそうなブランコ。

それは、思いっきりこぐと海が見えるブランコと同じくらい特別だった。