語る、また語る

いつもにプラスα

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先達

「日本にいたら、同じのがあたりまえで人との違いが気になっちゃうけど、外国にいると違うのがあたりまえ。ちょっとやそっとの違いなんて気にしてたらやっていけないし、気にならなくなるよ」

二十代そこそこの私に発せられた、印象的な言葉。

人との違いに納得のいく折り合いがつけられなくて悩むのはあいかわらずだが、年とともに意味合いが重みを増している。


組織に染まらない異端児。

かといって、近寄りがたくなくて、若手を事あるごとに励ます人。

知っていることといえば、ドイツのメーカーで働いていたことがあって、スイスに何年か住んでいて、京都にいたことがあるということくらい。


「僕はねえ、年がら年中なんて、働きたくないんだよ。馬を運ぶ仕事とかをして、何か月か働いたら何か月か休むように働きたいんだよね、ははははは。」

とか何とかおっしゃっていて、結局イタリアの聖地を夫婦で歩いて周りたくなったとかで、定年を待たずに風のように旅立って行った。

会社には十年もいなかった。

別れ際に、遠くに見えるその人と手を振り合った。

「手ぐらいは振るからね」と伝えられていたが、まさか本当にそうなった。


あれから会うことはない。

でも、折に触れて話した言葉、かけてくれた言葉を思い出して、不意に立ち止まってしまうような人。

その人は私にとってそういう人だ。