語る、また語る

いつもにプラスα

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境界

午後五時過ぎ、タイムカードを打刻し、
三階から事務所の階段を下りる。

工場を横目に敷地内の駐車場へ急ぐ。

車のドアロックを解除する。

運転席のドアを開ける。

鞄を助手席に放る。

運転席に座ってドアを閉める。

ふうと溜息をつく。

ドア一つで、外と中が隔たるこの瞬間に、
いつものように私は安堵する。

外に晒されている身を
車という閉ざされた空間に置けたからか、
はてさて、しばし人との接触を絶てるからか。


眠るときは、皆、瞼を閉じるようにできている。

闇に身体を投じるこのときの気持ちが、
あの運転席に座ったときに少し似ている。

何も考えない、何も感じない。

いっときの幸福。
幸福の中の幸福。
幸福の中の苦痛の中のそのまた幸福。

それを何と呼ぶか、決めなくてもいい。

言葉を当てがって区別するのは、
もったいない。