語る、また語る

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ふたりだけの秘密

生活圏に職場がある人が大半の地域では、
休みの日にも職場の人との遭遇が
起こりがちだ。

行くところが限られているため、
みんな同じところに買い物に行き、
同じところに遊びに行って、
タイミングが合えば、バッタリとなる。

私も職場から車で10分くらいの
アパートに住んでいたことがあり、
そのころは、行くところ行くところで
職場の人に会っていたものである*1

今回は、そんなむかしの懐かしくも
ほろ苦いエピソードです。


職場があった地域では、
毎年大きな花火大会が行われていた。

2日間にわたって開催される
夏祭りのフィナーレが花火だった。

海から打ち上がる花火を見るために、
皆が思い思いの場所に繰り出す。

ある意味、風物詩だと思っていたのが、
海に注ぐ川にかかる橋に集まった人たちだ。

下流から上流にかけて、
いくつもの橋がかかっているのだが、
もうどこの橋に行っても人だらけなのだ。

田舎なので高い建物もなく
ちょうど花火も見えやすい、
また歩道も幅のある
しっかりとした橋ということもあり、
地元の観賞スポットになっていた。

入社三年目くらいの夏に、
歩いてそこの橋に向かう途中で、
職場の人に会った。
たまに雑談をする、感じのいい方だった。
歳は向こうが一つ上。

同じ職場の方と来ていて、
挨拶されたけれど
気まずそうな顔をされていて、
彼の個人的なことはあまり知らなかったが、
あの人は恋人なのだろうかと思いながら、
花火を眺めていた。

次の日職場で仕事をしていると、
彼がこちらへやって来て、
自分たち二人は付き合っているのだけど、
「昨日のことは周りに言わないでほしい」
と小声で頼まれた。
声の聞こえる範囲に人はいなかった。

噂好きな人はいるもので、
しばらくしてから「あの人とあの人が
一緒にいたところを見たんだけど、
付き合っているのかな」と
聞かれたことがあったが、
私はもちろん知らないと言った。

二人とも独身の男女で、
別に隠すこともないだろうが、
社内ではいろいろ面倒なのはわかる。


彼の秘密にしておきたいことを
私が知っている事実に、
胸がいくらか高まったことは、
彼には秘密だ。

恋人になりたいとかは思わないけれど、
彼への淡い気持ちがあったこともね。

内容はどうであれ、彼に話しかけられると
うれしかったし、話せるだけで満足だった。

花火もそうだけど、
手が届かない距離にいるからこそ
輝いて見えるものは、ある。

お題「花火にまつわる思い出を教えてください」

*1:たとえば、お店の売り場を歩いていたら、前方から職場の人が歩いてきた。
あるいは、レジに並んでいたら後ろに同じ部署の先輩が並んできた。
ほかにも、大型ショッピングモールの駐車場でさまよっていたら、対向車を運転していたのが隣のグループの方で、お互い気づいて会釈したこともある。
自転車に乗っていたら、同じく自転車に乗っているチームリーダーを発見したりもした。
驚いたのは、図書館のレストスペースで眠る取締役に遭遇したときだ。静かに横を通り過ぎた。