十歳になったくらいのころに一人芝居をしていた。誰に見せるわけでもなく家で一人で。ストーリーはおそらく、主人公である"悩める自分"が"誰か"に相談をするというものだったと思う。台本などなく思ったことをそのまま言葉にする発声だけの芝居だった。いやそんな大そうなものではなく、独り言の域でもある。やけに感情を込めていた覚えもある。週末に自分の部屋の掃除をしていてするときに気が向いたら芝居を始める。その誰かに行動を促され、自分はためらい、また相手に鼓舞されるのがいつもの構図だった。
そのころの悩みといえば、友人についてのものばかりだったように思われ、幼いながらにその悩みをどうにかしようとした結果が一人芝居だったのだろう。
ところで、その会話を母に聞かれてからかわれたことが一回ある。芝居の声はささやき程度ではなく普通に誰かと会話できる大きさだったので、周りの音が聞こず母の気配を察することができなかったというわけだ。気づいていても放っておいてくれたら、と面映ゆかったことこの上ない。とはいえ母に聞かれたからやめるわけではなく、これからは気づかれないようにと逆に奮い立ったのだった。
一年もしないうちにクラス替えによって悩みはなくなり、一人芝居をすることもなくなったけれど、内なる一人芝居はときに今も続いているのではなかろうか。