ある人に、お礼を言う機会があった。
立ち話で時間がなかったのもあるけれど、
上手くしゃべろうとか、
相手に喜んでもらおうなんて考えず、
思いのままに発した言葉が、
驚くほど鮮明に耳に入ってきた。
伝えたのはこちらの方なのに、
自分が素直で無心だったからか、
逆に何かをいただいたような、
そんな感覚があった。
やさしいその人のやさしい雰囲気に、
また私も包まれていた。
人と話すとき、何か気の利いたことを
言おうとか、語彙を豊かに返そうとか、
そんなことを企むことがある。
そういうことを考えているときの会話は、
大概自分が堅苦しい。
利と害のぶつかりが少ない間柄にあって、
何も考えずに伝えることは、
何かを考えながら伝えるのとは違ったものを
生み出すのかもしれない。
ランドセルを背負った子どものような
素直さが導く先を、私はまた見たくなった。