語る、また語る

いつもにプラスα

 本サイトのリンクから商品を購入すると、本サイトに収益の一部が還元されます。

煙とともに宙に

90年代の終わりといえば、学校内でもまだ喫煙場所が設けられおり、一息入れる人たちが煙をくゆらせ談笑していたものである。

職員室につながる通路の花壇に腰掛け、煙草を吸う担任を見つけると何人かで駆けていき、何でもないことを話すのは休み時間の恒例であった。この暗黙の喫煙場所には、常連の数人が集まっており、少し眉間に皺を寄せて煙を吐き出す彼らの横顔が、これを書いていると目の前にありありと広がってくるようである。

「先生、何で煙草吸ってんの?」という疑問に対して、「大人もいろいろあるわけよ」と渋い顔をして笑っている。弾けるような笑いでもなく、かといって哀しみだけでもないその顔にやけに親しみを感じるようになってきた。

煙草の煙を吐く仕草を見ていると、煙とともにきっと抱えている何かを宙に吐いているのだろうという想像は、その人たちにとっては余計なお世話かもしれない。遠くにあるから美しいに通じるだけだったとしても、あの煙に含まれる煙だけではない何かを宙に見ている。