語る、また語る

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読書

東畑開人『心はどこへ消えた?』~がんばりすぎていた、傷ついてもいた~

わたしは、勤続十数年、共働き十年、共働きと育児六年の末、働くことを止めた身である。退職してから1年が過ぎたけれど、たまにあの怒涛の日々を思い出すことがある。辞めたことは後悔していないし、むしろよかったと思っている。けれども、あのときこうすれ…

吉野弘さんの詩「歩く」と「刃」~やさしくて、尖っている~

詩人の吉野弘さんは、「祝婚歌」や「奈々子に」といったやさしい作品がよく知られているイメージだ。*1たとえば、この「歩く」なんてのも、清らかな情景にあふれた、言葉がキラリと光るような詩で、わたしは気に入っている。 太陽を睫ではじきながら歩く太陽…

吉野弘「奈々子に」~子どもたちへ、大人たちへ~

子育てをしていると、自分は現役ではあるのだけれど、一方でもう引き渡す側でもあるのだと感じることが多々ある。子どもたちのエネルギーがすごすぎて、冗談ではなく、命を削って、彼らと過ごしている気がしてくる。そんな子どもたちに、いつか読ませたい詩…

吉野弘「犬とサラリーマン」~ただそばにいるだけで~

何も話さなくてもいい。ただそばいるだけでいい。読み終えたあとに、少しのぬくもりと、哀愁を感じる詩がある。吉野弘さんの「犬とサラリーマン」だ。 また来た。ビスケットを投げたが やっぱり食わない。黙って僕を見つめている。 始めて来たとき 魚の骨を…

吉野弘「祝婚歌」~詩との戯れ~

30代半ばになって、詩を読むようになった。詩は短い時間で読むことができ、何かしらのエッセンスのようなものをサクッと得ることができる。たまに、何を表わしているのか、まったくわからないものもある。でも、そのときは「わからない」こと自体を楽しむ。…

あの賞は、励ましだったのかもしれない

中学生のとき、校内の読書感想文コンクールに入選し、毎年度末に生徒会が発行している冊子に載ったことがある。わたしは、出来がよかったから選ばれたとばかり思っていたけれど、本当にそうだったのだろうか。先日、読んだ本について書いたが*1、そこで意味…

親も先生もスーパーマンではない~小池昌代「わたしたちはまだ、その場所を知らない」~

小池昌代「わたしたちはまだ、その場所を知らない」の感想を書いています。

心の覗き見~魚住陽子さん、おすすめ本2冊~

夏のおわりにかけて、作家、魚住陽子さんの著書を読んでいた。発表された作品は、決して多くはないけれど、一つひとつに重みを感じた。11歳の娘と夫を捨てて、男の元へ逃げる40歳になる妻の家で過ごす最後の時間を濃密に描いた「敦子の二時間」。冷静を装お…

待つことはよろこびである~荒井良二さん絵本「こどもたちはまっている」~

自分に向けて、一番たくさん読んでいる絵本、荒井良二さんの「こどもたちはまっている」。この絵本を見ているときは、いろいろなことを忘れている。深みのある色彩で描かれた絵は、どれも生き生きとしている。それだけ心惹かれる絵なのだ。繰り返されるのは…

一人の日々から感じられる、ほのかなぬくもり~稲葉真弓さん、おすすめ本2冊~

1995年、今から27年前の本だった。長いこと、書庫に保管されていたのだろう。本を開くと、古い紙のにおいがした。いやな感じはしなかったから、わたしは思わず鼻を本に近づけて、においを嗅いだ。図書館で、稲葉真弓さんの本をいくつか借りてきた。一人の女…

本のなかに自分がいた~朝倉かすみさん、おすすめ本3冊~

朝倉かすみ さんは、小説を書き始めたのが31歳で、デビューが43歳だという。10代のうちに彗星のごとく現れる作家さんとはまた違うが、歳を重ねているからこその安定感のようなものがあると感じる。けっこう現実味をもって、ストーリーが迫ってくる。でもそれ…

読む本はどうやって選びますか?

本を選ぶのに時間がかかる。むしろ、読むよりも選ぶことに情熱を注いでいるかのように思えてくる。これといってよく読む作家さんがいないということもあるのだろう。本屋さんに行き、タイトルに惹かれて手に取り、帯の紹介文や推薦文を読んでも、まずそこで…

いい人にならなくていっか~益田ミリ「永遠のおでかけ」~

私は、いい人でありたいと思うあまり、怒りや哀しみを感じても、笑おうとしてしまうところがあった。いつも笑っている人が、いい人なのかと言われると、何か違う気もするが、外面は努めてそのようにふるまっていた。だから、人あたりがいいと言われたことも…

稲垣えみ子「寂しい生活」~役に立つとか立たないじゃなくて、自分を認める~

自分の中でなんとなく思っていたけれど、上手く言葉にできなかったことが、本に書かれていた。読んだのは、稲垣えみ子さんの「寂しい生活」。(内容に触れています。)タイトルから、暗い本なのではないかと思うかもしれないが、とても前向きな本である。著…

切なさの正体~益田ミリ「そう書いてあった」~

この切なさは何だろうと、しばらく考えていた。益田ミリさんのエッセイ集「そう書いてあった」を読んだ。印象に残ったエピソードが二つあった。まずは、黄色いワーゲンについて。著者が小学生のときのルールで、一日に黄色いワーゲンを三台見られれば、良い…

感覚を呼び覚ます~絵本「しずかなみずうみ」山崎優子~

少し前に、図書館で見つけた絵本、山崎優子さんの「しずかなみずうみ」。森の向こうの、もっと遠くの山の静かな湖でボートを漕いでいく子ども。ゆっくり流れる時間を感じるような絵本。深みのある絵、さりげない"しかけ"もあっておもしろい。物語と同時に進…

絵本を眺めて一息~安野光雅『旅の絵本X』~

私は、絵本を買うとしたら必ず書店で買う。なぜなら、実際に手に取ってページをめくりながら選ぶのが楽しいからだ。今はインターネットでも、絵本の一部を見れたりもするが、やはり実物を目で見て選ぶ方がよいから、インターネット経由で絵本を購入したこと…

大人にもおすすめ~終わり方に技あり!な絵本3選~

最後のページをめくって、「!?」となる、終わり方に技あり!な絵本の紹介です。「!?」がうまく表現できませんが、意外な終わり方という感じでしょうか。 ①まばたき 作: 穂村 弘 絵: 酒井 駒子 ②タコさんトコトコどこいくの? ツペラ ツペラ(tupera tu…