語る、また語る

いつもにプラスα

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進退

たとえば、居たところを後にするとき、
体が居たところからは"退いている"。

しかしそれはまた、
どこかに"進んでいる"ことでもある。


日も暮れて、各所への挨拶も済ませ、
端末と社員証なども総務に返し、
いよいよ終わりが近づいてきていた。

空になって軽い引き出しを開けると、
より一層、もうここには来ないのだと
感じられた。

花束と選別の品、最後まで残しておいた
荷物なども合わせると、
一人では持てない量になった。

席が後ろだったお世話になった同僚が、
荷物を一階までおろすのを
手伝ってくれることになった。

準備をしていると、部門長がやってきて、
何やら言葉をかけられた(気がする)。


そのまま同僚と私で階段を下りていく。

名残惜しさはあったのかもしれないが、
あまりしんみりもしなかった。


外は雨。

通用口まで自分の車を持ってきて、
荷物を載せていく。

同僚と一言二言話して、
車に乗り込んだ。

ライトが付くと、
ぱっとフロントガラスの前が明るくなった。

ワイパーが動かす雨粒は、
さぞかし綺麗だったことであろう。

同僚に会釈して、アクセルに右足を置く。

濡れている地面にタイヤを滑らせ、
車が発進する。

車は会社から遠ざかっていく。

私は家に近づいていく。


あの日、会社を出てもなお、
私のこれからは続いていた。

何かを背にして進んだ先には、
小春日和の今日という日があった。