語る、また語る

いつもにプラスα

 本サイトのリンクから商品を購入すると、本サイトに収益の一部が還元されます。

沖に出ていく

船着き場から渡船に乗り、沖に停泊している鉄を組み合わせた巨大な乗りものを目指す。全長は百メートルと少し。数分して横に渡船を付ける。デッキから梯子が下りてきている。次々に人が上がっている。

綱をつかみ損ねて足を滑らせれば、そこは海。梯子に足をかけて登る。デッキまで五メートル、自分の筋力と梯子を信じるしかない。上だけを見る、決して下は見ない。デッキに到達することだけを考える。

デッキに足をのせる。船着き場が遠くに見える。エンジンの音が聞こえる。

仕事を終え、陸に戻るために梯子を下りる。あいかわらず怖い。下りる方が怖い。下りることだけを考えて渡船に移る。渡船は小さいから、誰かが降り立つ度に波とも相まってぐわんとゆれる気がする。

夕方の居酒屋で注がれた液体は、いつもより輝いていた。


一度だけ、梯子を使って船に入ったことがある。とても恐ろしかった。それから何ともなくむかしのことになっているけれど、あの乗船ことを書いておきたくなった。